◎「あの俳優がまた来る」ロンドンに立つ
堤春恵さんの作品「仮名手本ハムレット」で国内の公演につづいてロンドン公演に出かけた。
まだ国内の公演中に、ロンドンBAC(バタシー・アーツ・センター)のチケットは全公演完売になったというしらせ。と同時に一九八五年にイギリス・エジンバラで「土佐源氏」をみたというイギリス人から、あの俳優が来るのかという問い合わせがあったのかというしらせ。
もう十六年前のことだ。これには嬉しさといっしょに驚いてしまった。
「仮名手本ハムレット」という芝居は、明治三十年に歌舞伎俳優たちが「ハムレット」の本邦初演に取り組んでいるという設定のドラマで、私の役はガーツルードを演ずることになった老女形吉澤花紅という役どころ。ハムレットの母親役としてはちと齢がはなれすぎているというみんなの反対を押しきってガーツルードを演ずるのだが…
このお芝居は初演が一九九二年で今回で四度目だが、再演は続演にあらずで、今度も役を新たに工夫したことによって舞台上で楽しく遊ぶことが出来た。毎日役を愛し、役を生きることをこころがけた。
日本ではともかくロンドンという不安があったが、ロンドンでも拍手と爆笑がつづいた。
このように舞台上では神さまがほほ笑んでくれたが、舞台外では神さまはイタズラをなさって街を歩いていてサイフを掏られてしまった。
|
|