原宿ものがたり


  原宿に移り住んで、もう23年になる。もうコリた。交通に便利というので移ったがもう住むのはごめんだ。
 住み家のぐるりをぞろぞろゾロゾロと若者のむれがとり囲む。片手に電話、片方にタバコ。どこでもすわり込んで食べたカスを捨てて、ジュース缶にタバコを突っ込んでそのまま置いて去る。おまけに夜などゲロ吐いて去るし、ときには立小便までやらかす奴もいる。
 
 僕の住んでいる通りは昔とんちゃん通りといって親しまれていた通りだ。あの竹下通りを通って明治通りを渡り左ななめに入ったすぐのところに大きな赤ちょうちんのぶらさがったヤキトリのうまい店とんちゃんがあった。現在も同じ場所にあるのだが、店のかまえも昔のおもかげもない。そして今は誰も、とんちゃん通りとは云わなくなってしまった。なじみ親しんだ、肉屋も、魚屋も、八百屋も、雑貨屋も、隣のクリーニング屋も、食事をしにいった小料理屋も、みんな店をたたんでしまって、ブティックや靴屋や美容院にさまがわりしてしまった。

 20数年前、ここ原宿に移って間もなくの頃だった、とんちゃんの店長が従業員とみんなして朝通りを掃除しているのをみた。店の前だけなら当り前のことだが、このとんちゃん通り全部をである。僕はこれをみてえらく感動した。そこである日店長に「店のみなさんが毎朝通りを掃除しておられるのをみて頭のさがるおもいがしました。ついては勝手で余計なことかもしれませんが従業員のみなさんに僕の『土佐源氏』というお芝居を、店の休みの日にお店の2階の座敷をおかりして観てもらいたいとおもうのだがどうだろうか」と話かけてみたところ、店長はこころよく話しにのってくえて坂本さんんが無料でやってくれるというのだから、我々の方もせっかくのことだから、店のなじみ客数名と町内の人も呼んでにぎやかにやりましょうと云ってくれて、さらにヤキトリも酒も無料で出しましょうとトントンびょうしに話がはずみ、赤茶けた障子を背景に約50名ばかり集まった人々の前で「土佐源氏」を演じたものだった。おもいだすとなつかしい。
 時代の変転とはいえ、あまりにも急げきに変ってしまった原宿とんちゃん通り
 原宿よさらば
 あばよ東京といきたいおもいだ。

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