新雪踏みしめ舞台へ
車でむかえに来て欲しくなかった。歩きたかった。新雪を踏んで歩きたかった。 正月二日の朝八時三十分に宿のコテージ“ゆうゆう”を出た。降りしきる雪。歩道も畑も区別がつかない。車道はピカピカ、カチンカチンに凍りついている。歩いている者なんて一人もいない。俺だけだ。車がすべるように走って氷上の新雪をようしゃなく俺の顔面にふりかけてきやがる。 荒い息を吐きながら、しめりけのない新雪をキュッキュッと踏みしめて進む。吐く息は大きいが吸うのはちょびっとだ。 岡の上にどでんと構える新築のふらの演劇工場が見えているのだがなかなか近くにならないのだ。顔を上にあげれば雪がかぶさる。耳はちぎれるのではないかとおもわせるほどに痛いのだ。 やっと曲り角に来て立止る。ここからが坂道。この坂道が急で長い。首筋から背中にかけて汗だ。 みなさんの協力を得て舞台仕込みにかかる。奥ゆきのある立派な桟敷。満足感でいっぱいの装置が出来た。 さあ、今日と明日。二十一世紀初頭。北国での新春特別公演「土佐源氏」。新築になったふらの演劇工場での開幕。この降き荒れる雪のように真白な気持ちで。 登場は客席から――「気」を投げて、「気」をいただく、足のつまさきから頭のテッペンまで緊張のアンテナ張りめぐらして。舞台に着いたら、あとは「無」になって「土佐源氏」の役を生きるのみ。 おことわり このあと書きたいこともあるのですが、いまは「假名手本ハムレット」のけいこ真最中。前橋ー神戸ー名古屋ー大阪ー京都ー東京ーロンドンと打って三月三十日に帰京することになっています。 |
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